株価が安い=割安?
1株の値段と企業価値を分けて考える
「この株は500円。あちらは5,000円。それなら、500円のほうがお得?」。株価の一覧を見ていると、つい値札の小さなほうに目が向きます。でも、1株の値段だけでは割安かどうかは分かりません。コーヒーをひと口飲みながら、値札の奥にある数字を見てみましょう。
株価は「1株の値段」。時価総額は「株式全体の市場評価」。PERは「利益」、PBRは「帳簿上の純資産」と比べる物差しです。どれか一つで買い時を決めず、組み合わせて理由を確かめます。

500円と5,000円、どちらがお得?
たとえば、同じ大きさのケーキを10切れに分ける店と、100切れに分ける店があるとします。ひと切れの値段が違っても、ケーキ全体の量まで違うとは限りません。株式も、会社ごとに発行されている株数が違います。値札だけを横に並べると、この「切り分け方」を見落としてしまうのです。
株価が低いと少ない金額で1株を買えることはあります。ただし、それは買いやすさの話。日本の取引所に上場する内国株式は100株単位が基本です。[5] 100株を買うなら、500円の株は5万円、5,000円の株は50万円です。手数料等を除く必要額は違いますが、どちらが利益や資産に対して安いかは、まだ分かりません。
「手が届きやすい」と「お買い得」は、ちょっと違うんですね。まずは値札以外にも目を向けてみましょう。
株価に株数を掛けてみる
そこで登場するのが時価総額です。基本の計算は株価×発行済株式数。JPXの用語集では、株式市場で評価された株主持分の時価価値の総額として説明されています。[1] ここでいう株主持分は、会社の価値のうち株主に帰属する部分です。買収分析などの「企業価値(EV)」では借入金や現金なども考慮するため、時価総額と同じ意味で使わないようにしましょう。
架空のA社が1株500円で1億株なら、時価総額は500億円。架空のB社が1株5,000円で100万株なら50億円です。1株の値段はA社が安くても、株式全体への市場評価はA社のほうが10倍大きい。だからといって、B社がお得という結論にもなりません。次に利益や純資産を比べる必要があります。
株式分割も、値札を読む練習になります。1株を2株にする分割では、ほかの条件が同じなら理論上の株価は半分、保有株数は2倍です。分割そのものだけで持分の価値が増えるわけではありません。[2] 実際の市場では期待や需給でも値動きするため、分割後の値段を見て「半額になった」と飛びつくのは早計です。
PERは、利益との比べ算
PER(株価収益率)は、株価÷1株当たり利益(EPS)で求めます。株価が利益の何倍かを見る指標です。[3] 株価500円、年間のEPSが25円なら、500÷25=20倍。5,000円でもEPSが500円なら10倍です。株価が高いB社のほうが、利益に対する倍率では低いことになります。
ただし、PER10倍は「10年で元が取れる」という約束ではありません。利益がすべて配当になるわけではなく、将来の利益も同じとは限らないからです。成長が期待される会社には高い倍率が付く場合もあれば、利益が減りそうな会社には低い倍率が付く場合もあります。
見比べるときは、実績のEPSか会社予想のEPSか、いつの決算か、単発の利益が含まれていないかを揃えます。たとえば土地の売却益でその年だけ利益が増えると、PERは低く見えることがあります。赤字でEPSがマイナス、またはゼロに近いときも、通常の「低いほど安い」という読み方は使いにくくなります。
PBRは、純資産との比べ算
PBR(株価純資産倍率)は、株価÷1株当たり純資産(BPS)。利益という一年間の結果ではなく、帳簿上に積み上がった純資産と株価の関係を見ます。[4] 株価500円、BPSが250円なら2倍。株価5,000円、BPSが5,000円なら1倍です。
「PBRが1倍未満なら必ず儲かる」とは言えません。帳簿に載っている資産が、その金額で売れるとは限らず、赤字が続けば純資産が減る可能性もあります。反対に、人材やブランド、研究開発の力が帳簿の数字だけでは見えにくい会社もあります。事業の性格が違う会社を、倍率だけで順位付けしないことが大切です。
PERは「稼ぐ力との距離」、PBRは「帳簿上の資産との距離」。どちらも答えそのものではなく、調べる入口にすると使いやすそうです。
架空の2社を、並べてみよう
ここまでの数字を一枚の表にまとめます。A社とB社は説明のための架空企業です。株数は期中に変わらず、自己株式はなく、EPSとBPSは同じ基準で計算されていると仮定しています。税金・手数料・実際の値動きは扱っていません。
| 物差し | A社 | B社 | 何を見る? |
|---|---|---|---|
| 株価 | 500円 | 5,000円 | 1株の値段 |
| 発行済株式数 | 1億株 | 100万株 | 切り分けられた株数 |
| 時価総額 | 500億円 | 50億円 | 株式全体の市場評価 |
| EPS(年間) | 25円 | 500円 | 1株当たりの利益 |
| PER | 20倍 | 10倍 | 株価÷EPS |
| BPS | 250円 | 5,000円 | 1株当たりの純資産 |
| PBR | 2倍 | 1倍 | 株価÷BPS |
この表から分かるのは、「B社は今回の仮定ではPER・PBRが低い」というところまで。成長率、財務の安全性、利益の継続性をまだ調べていないので、どちらを買うべきかは判断できません。数字を使うほど、数字の外側に残った疑問も見えてきます。
最後は「なぜ?」を調べよう
実際の会社を見るときは、まず同じ業種の企業やその会社の過去と比較し、差の理由を探しましょう。数字は証券会社の画面だけで終えず、会社のIRサイトにある最新の決算短信・説明資料と照らし合わせます。自己株式の扱いやEPSの対象期間は資料ごとに違い得るので、計算条件も一緒に確認します。
- 株価と株数を見て、会社全体の規模をつかむ。
- PER・PBRの基準日、実績・予想、利益の中身を揃える。
- 「低い理由」と「その理由が変わる条件」を一つずつ書く。
値札が安いことと、価値に対して割安なことは別の話。今日はそれを分けられたら、十分な一歩です。「500円だから」から「なぜこの評価なのだろう」へ。次に株価一覧を開くときは、ひとつだけ物差しを増やしてみませんか。
参照した一次資料
確認日:2026年10月26日。定義は以下の公式資料を参照し、文章・図解・架空の計算例は本記事のために構成しています。
この記事は一般的な学習用の情報です。特定の銘柄の購入・売却を推奨するものではありません。投資には価格変動等による元本割れのリスクがあります。