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任天堂は黒字なのに、現金が減った?|
決算の利益とお金の流れを追う

/ ひろみの株窓 / 約11分

利益はしっかり出ている。それなのに、決算書の「現金及び現金同等物」は前の年より少ない。「売れていないの?」「お金が足りないの?」と気になったら、残高の横に、お金が動いた理由も並べてみましょう。任天堂の2026年3月期を例に、利益と現金の間をつなぐページを開きます。

2007年に撮影された京都の任天堂本社の建物
京都の任天堂本社(2007年1月1日撮影)。写真:Chris Gladis / Wikimedia Commons / CC BY 2.0(改変なし)。

黒字と期末資金残高を並べる

使うのは任天堂が公表した2026年3月期の連結決算です。対象期間は2025年4月1日から2026年3月31日、日本基準。比較する前期は2024年4月から2025年3月です。四半期の最新業績を予測する記事ではなく、通期の数字を同じ範囲で読む練習として見てください。[1]

連結実績/単位:百万円。残高は各年3月末。
項目2025年3月期2026年3月期
売上高1,164,9222,313,051
営業利益282,553360,117
親会社株主に帰属する当期純利益278,806424,056
期末の現金及び現金同等物1,414,1211,316,680

当期純利益は424,056百万円、約4,241億円の黒字です。一方、期末資金は97,441百万円、約974億円減りました。ここで「黒字なのだから、現金も利益と同じ額だけ増えるはず」と考えると、話が合わなくなります。

仮の例で、商品を販売し、代金は翌月に受け取る約束だったとしましょう。売上と利益を計上する時点と、口座へお金が入る時点はずれます。反対に、まだ販売していない商品の材料を先に仕入れて支払えば、売上が立つ前に現金が動きます。

ひろみ

利益のページだけで答えを出さず、キャッシュフロー計算書も隣に置いてみましょう。「いくら残ったか」の前に、「何で増え、何で減ったか」を一つずつ追うと読みやすくなります。

減った974億円は、どこへ?

キャッシュフロー計算書では、営業・投資・財務という三つの区分に分けて資金の動きを示します。営業は事業活動に伴う入出金、投資は設備や金融資産などに関する入出金、財務は資金調達や株主への支払いなどです。区分名だけで良い・悪いを決めず、内訳を見ます。

2026年3月期・連結/単位:百万円。+は資金増、−は資金減。
期首から足し引きする項目金額
期首の現金及び現金同等物1,414,121
営業活動によるCF+289,789
投資活動によるCF−210,054
財務活動によるCF−249,714
換算差額+72,538
期末の現金及び現金同等物1,316,680

営業活動では289,789百万円の資金を得ています。それでも投資・財務の支出があり、為替による換算差額も加わって、期末は上の残高になりました。「現金が減った」という結果から、本業で資金を失ったと決めつけることはできません。[1]

財務活動の内訳には自己株式の取得99,935百万円、配当金の支払い147,858百万円があります。投資活動には、定期預金の預入・払戻や有価証券の取得・売却等も含まれています。このため、投資CFのマイナス全額を「工場を建てる費用」や「赤字の穴埋め」と読むのも早計です。

この表からの読み取りは、資金が減った経路を切り分けるところまでです。自社株買いや配当が将来も同じ額で続くのか、株価にどう反映されるのかは別の問い。ここに並ぶ実績を、そのまま今後の利益や株主還元の保証には置き換えません。

在庫は売れ残りだけを意味しない

本業と現金のずれをもう少し掘るなら、貸借対照表の「棚卸資産」を見てみます。商品や仕掛品、原材料など、販売や生産の途中にある資産です。任天堂の年次報告書では、2025年3月末486,428百万円から、2026年3月末539,804百万円へ増加しています。差は53,376百万円、約534億円です。[2]

在庫が増える場面は一つではありません。たとえば、これから多く販売するために準備を進める場合もあれば、想定より売れずに残る場合もあります。「増えた」という一語だけでは、この二つを区別できません。

年次報告書は、原材料や製品の利用・販売見込みによって棚卸資産の評価が左右されると説明しています。ここから先に必要なのは、「次に売れるはず」と期待で埋めることではなく、販売の推移と評価に関する説明を追うことです。在庫があることと、将来その帳簿価額どおりに回収できることは別です。

もう一つ、小さいけれど大切な違いがあります。2026年3月期のCF計算書にある「棚卸資産の増減額」は−27,591百万円で、貸借対照表の残高差53,376百万円とは一致しません。期末残高の比較とCF上の調整は同じ計算ではないため、残高差をそのまま「在庫のために払った現金」として転記しないようにします。[2]

2018年に撮影された京都の任天堂開発棟の外観
任天堂開発棟の外観(2018年9月15日撮影)。写真:Christophe95 / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(改変なし)。

「現金及び預金」とは別の数字

貸借対照表を開くと、「現金及び預金」は2025年3月末1,586,275百万円から2026年3月末1,791,802百万円へ増えています。「さっきは現金が減ったと言っていたのに?」と感じるところですが、先ほどの表は「現金及び現金同等物」。項目名が違います。[2]

年次報告書の会計方針では、CF計算書の資金の範囲を、手許現金、要求払預金、それに取得時から満期まで3か月以内の一定の短期投資などとしています。現金及び預金の残高と同じ範囲とは限りません。二つの表で増減の方向が違っても、ただちに計算間違いや矛盾になるわけではないのです。

一枚の決算書の中でも、似た名前の数字を取り違えると印象が変わります。家計でいえば、普通預金だけを見るのか、定期預金なども含めるのかで、使う表が変わるようなものです。ただし、企業会計上の資金の定義は資料に従って確認してください。

買収の影響を調べたいときには、のれんに関する注記も候補になります。今回の年次報告書には、のれんは原則5年間の均等償却、少額の場合は発生年度に全額償却する方針が記されています。のれんを比較するときは、金額だけでなく会計基準や償却方針の違いも確認しましょう。[2]

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メモには数字だけでなく「連結・対象期間・単位・項目名」も一緒に。似た名前だからと省略しないことが、思い込みを減らす近道になります。

次の決算で、どこを確かめる?

Yahoo!ファイナンスの任天堂掲示板も補助的に観察しました。11月3日23:23の投稿1883095には決算後の値下がりを心配する趣旨、23:58の投稿1883102にはダウンロード購入の動きを他の投稿から感じ取る趣旨が見られました。観測は11月4日00時台JST、この二投稿だけを取り上げています。[3]

どちらも匿名の意見です。売上の実測値ではなく、市場全体の見方を代表するものでもありません。「売れていそう」という印象を確認するなら公式の販売実績へ、資金に不安があるならCFと貸借対照表へ戻ります。

次の資料を開いたら、まず同じ期間同士で、営業CF、在庫、売掛金、資金残高を並べてみてください。四半期の3か月間と通期の12か月間を、そのまま大小で比べないことも大切です。新製品の投入や季節性がある事業では、前の年の同じ時期との比較も手がかりになります。

今回、確認できたのは「黒字なのに資金が減った」という結果の内側に、本業による資金獲得、金融資産や預金の動き、株主への支払い、換算差額があることでした。残高が増えれば無条件に安心、減れば危険という判定表にする必要はありません。一つの数字が気になったら、その数字を作った明細まで一段降りる。決算を読む作業は、そこから続いていきます。

出典・確認した資料

確認日:2026年11月4日JST。金額は任天堂の連結実績、単位は百万円(本文の億円換算は概数)。

  1. 任天堂:2026年3月期連結決算概要(2026年5月8日、英語)。冒頭の連結実績と連結CF計算書。決算短信の数値は未監査。
  2. 任天堂:Annual Report 2026。連結BS、CF、資金範囲・棚卸資産・のれん償却の注記。2026年3月期の年次報告。
  3. Yahoo!ファイナンス:任天堂掲示板。投稿1883095・1883102の要旨。匿名投稿は変更・削除される場合があります。

一般的な決算の読み方を紹介するもので、任天堂株の購入・売却を勧めるものではありません。将来の利益や株価は保証されず、投資には元本割れ等のリスクがあります。