10銘柄なら分散できている?|
投資先の数と中身を見直す
持っている株を数えてみたら10銘柄。「一つに集中していないから、これで分散できているかな」。そんな場面を考えてみましょう。ところが金額を並べると、一社だけで全体の7割を占めていた。あるいは、違う会社のはずなのに、似たニュースで一緒に値下がりしていた。分散を考えるときは、銘柄の数からもう一歩、中身をのぞいてみたいところです。
10銘柄の隣に、金額も書いてみる
たとえば、架空の保有株がA社からJ社まで10銘柄あるとします。全部を10万円ずつ持っていれば、株の合計100万円のうち、一社の割合は10%です。一方、A社が70万円で、残り9社を合わせて30万円という持ち方もできます。どちらも「10銘柄」ですが、A社の値動きが全体へ与える影響は同じではありません。
この割合を見るときに使いたいのは、原則として同じ時点の評価額です。買ったときの金額でそろえると、値上がりして大きくなった持ち分を見落とすことがあります。ここでは保有株の合計だけを100%としますが、家計全体を考えるなら預貯金なども含めて、何を全体として数えるかを先に決めておきましょう。
計算は「その投資先の評価額÷全体の評価額×100」。A社70万円、全体100万円なら70%です。株数の多さとも分けてください。1株の値段が違う株を、保有株数だけで横に並べても、お金の偏りは読み取れません。
一覧に「銘柄名・同じ日の評価額・全体に占める割合」の三つを書いてみましょう。数えるだけでは気づかなかった、大きな持ち分が見つかるかもしれません。
一社の下落は、全体にどのくらい響く?
割合が何に役立つのか、引き算で確かめます。合計100万円から始めて、A社だけが20%下がり、ほかの9社は動かなかったと仮定しましょう。A社を10万円持つ場合は2万円の減少。70万円持つ場合は14万円の減少です。
| 比較する配分 | A社10% | A社70% |
|---|---|---|
| 最初の合計 | 100 | 100 |
| A社の評価額 | 10 | 70 |
| A社が20%下落した減少額 | 2 | 14 |
| 下落後の合計 | 98 | 86 |
| 全体の変化率 | −2% | −14% |
同じA社の20%下落でも、全体への響き方が変わりました。この例で分かるのは、一つの投資先への金額の偏りが、全体の変化を大きくすることがあるという点です。「10%ずつなら安全」という合格点を作るための表ではありません。
もし10社すべてが一律に10%下がれば、この二つの配分はどちらも合計90万円になります。分けて持っていても、全体で同じ方向へ動く場面はあります。一社だけの出来事に備える話と、市場全体の下落に向き合う話を、いったん分けて考えてみてください。
名前が違っても、同じ方向へ動くことがある
次は、会社名の隣に事業や地域を書き足してみましょう。10社を選んだつもりでも、同じ業界に集中していたり、似た需要の伸びに期待していたりすることがあります。会社が別なら何もかも別、とは限りません。
金融庁の資産形成の解説は、国内・海外、株式・債券・不動産など、値動きの異なる複数の資産へ分ける考え方を紹介しています。[1] 分けるという言葉には、会社数を増やすだけでなく、地域や資産の種類を見直す意味もあるわけです。ここで挙げた資産を全部持つよう勧めているわけではありません。
GPIFも、性質や値動きが異なる資産を組み合わせる分散投資を説明しています。[2] 大切なのは「いつも反対に動く相手を見つければ終わり」と考えないことです。過去に違う動きをしていても、その関係が先々まで変わらないとは限りません。理由も分からず名前の違う商品を足すより、何に投資し、どんな変化の影響を受けるのかを調べるほうが、持ち物を説明しやすくなります。
投資信託やETFをいくつか持つ場合も、商品名だけで数えないようにします。運用会社の月次資料や目論見書などで投資対象と組入上位を確認すると、別の商品を通じて同じ企業を重ねて持っていることに気づく場合があります。上位の一覧だけで全保有銘柄を確認できるとは限らないので、資料の対象範囲と基準日も添えておきましょう。
商品名を隠して、「何に投資する商品?」と説明してみてください。説明がよく似ていたら、組入内容を見比べるきっかけになります。分からない欄は、想像で埋めず空欄のままで大丈夫です。
ソニーの決算で「中身」を確かめる
名前の違う会社を並べるだけでは、分散の中身がつかめない。では、事業がいくつもある一社ならどうでしょう。ゲーム、音楽、映画、家電、画像センサーを手がけるソニーグループを、決算の数字から見てみます。保有や購入を勧めるためではなく、「何が利益を支えている会社なのか」を読む練習です。

比較するのは、2025年3月期と2026年3月期の通期です。ソニーの2025年度決算資料(IFRS・未監査)を使い、継続事業の数字でそろえます。金融事業の非継続事業への区分に合わせて比較年度も組み替えられています。最新四半期の速報や株価の予想とは区別してください。[4]
| 事業 | 売上高 2025年3月期 | 売上高 2026年3月期 | 営業利益 2025年3月期 | 営業利益 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|
| ゲーム&ネットワークサービス | 4,543,571 | 4,570,053 | 414,819 | 463,258 |
| 音楽 | 1,820,263 | 2,090,534 | 357,255 | 446,986 |
| 映画 | 1,498,534 | 1,486,296 | 117,284 | 104,872 |
| エンタテインメント・テクノロジー&サービス | 2,362,838 | 2,184,815 | 190,926 | 158,584 |
| イメージング&センシング・ソリューション | 1,712,534 | 2,059,020 | 261,147 | 357,318 |
表は主要事業だけを抜き出しています。「その他」、全社・セグメント間消去等があるため、この5行を足して連結全体の数字にはしません。売上高と利益では順位も違います。ゲームは大きな売上高を持ちますが、音楽もそれに近い営業利益を上げています。
報告された数字では、継続事業の連結営業利益は1,276,635百万円から1,447,507百万円へ、170,872百万円増えました。いっぽう音楽の増益89,731百万円と画像センサー等の増益96,171百万円を足すと185,902百万円。二つの増益だけで全体の増益を上回ります。映画や家電等の減益、そのほかの項目が差し引かれるためです。
ここからの読み方として、「事業が多いから全部が同じように稼ぐ」とは考えないほうがよさそうです。伸びている柱と弱い柱を分けて眺めると、どこが全体を支えたのかが見えてきます。ただし、これは一年度の損益の比較。事業同士の株価への影響や、将来の独立した値動きを証明するものではありません。
増えた理由も確認します。会社の説明では、音楽の増益には売上増加に加え、Peanutsの追加持分取得に伴う再測定益347億円が含まれます。毎年同じ額が生まれる収益と、こうした取引に伴う利益は分けて考えたいところです。ゲームではネットワークサービス等の増益要因がある一方、Bungie関連資産に減損がありました。[5] 事業名だけでなく、増減理由まで読んで初めて数字の手触りが変わります。
貸借対照表と現金の動きも、一緒に開く
2026年3月末の連結貸借対照表では、のれんは1,673,906百万円(約1兆6,739億円)。前年末の1,508,721百万円から165,185百万円増えています。買収に関係する資産の大きさを追う入口になりますが、増加額だけで割高な買収だったと決めつけることはできません。
会社が説明したBungieの2025年度の減損1,201億円は、のれん以外の無形資産などの減損です。「のれんを1,201億円減らした」と読み替えてはいけません。将来の計画を下方修正したことと、どの資産の帳簿価額を見直したのかをセットで確認します。のれんが大きい企業では、今後も買収先の利益や回収見込みに関する説明を追う必要があります。[5]
現金も見ましょう。継続事業の営業キャッシュフローは1,971,349百万円から1,966,292百万円へ、5,057百万円減少しました。営業利益が約13.4%伸びたのに対し、こちらは約0.3%減。利益と営業キャッシュフローは対象や計上時期が違うため、差があるだけで問題とはいえません。「利益が増えたから現金も同じ勢いで増えたはず」と飛ばさず、在庫や債権、支払いなどの内訳を次に調べるきっかけにします。金融事業の分離もあるので、継続・非継続を混ぜた比較は避けました。[4]

掲示板の心配事は、調べる入口にする
公開されたYahoo!ファイナンスのソニー掲示板も補助的に読みました。2026年11月3日11:35の投稿997687には決算への期待、14:34の投稿997690には好決算でも株価が下がるのではという懸念が見られました。観測は同日17:45 JST、上記二投稿だけを取り上げています。[6] 匿名の意見であり、投資家全体の総意でも、今後の価格を示すデータでもありません。
ここで確かめられるのは「期待や不安が書かれている」ことまでです。利益が伸びた事実は公式資料で確認できても、それだけで次の株価は決まりません。掲示板の言葉を結論にせず、「利益の伸びのうち何が続きそうか」「何に期待が集まっているのか」という問いに直して、一次資料へ戻ります。
そして最初の分散の話へ。一社の中に複数事業があっても、持っている株は同じ企業の株です。経営判断や買収、資金の使い方など、一社に関わる影響は残ります。ほかの保有株にも似た需要や取引先が重なっていないか。銘柄を数えるときは、この二段階で中身を見てみてください。
分散しても、損失がなくなるわけではない
ここまで読むと、うまく組み合わせれば値下がりをなくせそうに感じるかもしれません。けれど、分散は元本保証の仕組みではありません。GPIFの長期分散投資の説明でも、分散していても一年間の運用でマイナスになる場合があると示されています。[3] その資料の過去の結果を、そのまま自分の将来の成績には置き換えられません。
値動きが気になるときは、配分表と一緒にお金を使う時期も見直してみましょう。近いうちに必要なお金まで値下がりする資産に置くと、相場の回復を待てずに売る状況になりかねません。金融庁も、生活設計やお金が必要な時期を踏まえ、貯蓄と投資を使い分ける考え方を紹介しています。[1]
また、値上がりした資産の割合が大きくなったからといって、この記事を見てすぐ売買する必要はありません。元の目的、税金や売買費用、商品の条件も関わります。まず偏りを把握することと、実際に配分を変えることを別の作業にしておくと、勢いで動かずに考える時間を取れます。
買い足す前に、一枚の見取り図を
新しい商品を探す前に、今ある投資先を一枚にまとめてみませんか。全部を細かく分析するのが難しければ、金額が大きい順に三つ書くところからでも始められます。
| 書くこと | 確かめたいこと |
|---|---|
| 同じ日の評価額と割合 | 一社や一商品に大きく偏っていないか |
| 投資対象・地域・業種 | 違う名前の商品で、中身が重なっていないか |
| 確認した資料と基準日 | 古い構成や一部の一覧だけで判断していないか |
| お金を使う予定 | 必要な時期まで値動きに向き合えるか |
10銘柄という数は、持ち物を知る一つの手がかりです。そこへ金額と中身を書き添えると、「数はあるけれど一社が大きい」「名前は違うけれど似た企業を持っている」と、次に調べたい点が見えてきます。まずは買い足す理由を考える前に、今の持ち物を説明できるか。まずは一番大きな欄から、決算資料の事業別の数字と照らしてみましょう。
出典・確認した資料
確認日:2026年11月3日JST。A社〜J社の配分・金額・値下がり率は架空の説明例です。ソニーの数値は下記の通期決算資料に基づきます。実際の保有状況、売買体験、実績や予測ではありません。
- 金融庁:資産形成の基本(分散投資、家計管理と生活設計)
- GPIF:分散投資の意義③ 卵を一つのかごに盛るな(性質・値動きの異なる資産を組み合わせる考え方)
- GPIF:長期分散投資の効果(分散していても損失となる場合があること、過去成績の限界)
- ソニーグループ:2025年度連結業績概要(2026年5月8日)(貸借対照表p.6、キャッシュフローp.13、セグメント売上高p.15・利益p.16。年度表示と3月期表示の違いに注意)
- ソニーグループ:2025年度決算説明会スピーチ(音楽の再測定益、Bungie減損の対象・理由)
- Yahoo!ファイナンス:ソニーグループ掲示板(匿名投稿997687・997690、投稿時刻は本文記載。投稿は変更・削除される場合があります。本文は要旨で、投稿者の指示や価格予想を採用していません)
一般的な学習情報であり、特定の銘柄・商品・配分の推奨ではありません。投資には元本割れ等のリスクがあり、分散や保有期間によって将来の利益が保証されるものではありません。図は本記事の架空例を説明する独自図解です。